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生活
2018年07月01日

日本のオジサンが世界で一番孤独説

日本のオジサンが世界で一番孤独説 2018.07.0150代の歩き方


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高齢化が進む中、「老後の孤独」が大きな問題となっています。問題の広がりは世界的ですが、その中でも、日本の高齢男性はもっとも深刻な状況にあるとの指摘も増えてきています。どうしてそんなことになってしまったのか。問題の本質に迫ります。

「孤独なオジサン」というニッポンの大問題

岡本純子さんの『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)は、日本の中高年層の孤独問題を深く掘り下げたユニークな一冊です。その中で紹介されている、各種の医学的研究成果の内容は、なかなか衝撃的です。「孤独は冠動脈性の心疾患リスクを29%上げる」「孤独な人はそうでない人より、20%速いペースで認知機能が衰える」「孤独度が高い人がアルツハイマーになるリスクは、孤独度が低い人の2.1倍」など、孤独がカラダや脳に与える悪影響についての情報が、これでもかとばかりに列挙されています。

個々の研究成果をどこまで信じていいかは分かりませんが、これだけ大量のデータが出そろってしまうと、「孤独がカラダや脳に悪い」ことは、ほぼ確定といえるでしょう。そして、残念なことに、岡本さんの見立てによれば、こうした「悪しきもの」である孤独を、世界で一番感じているのは、日本のオジサンたちらしいのです。

物理的な「孤立」に関してはともかく、心理的現象としての「孤独(感)」はなかなかに複雑なので、そう簡単に「世界一」と断じることはできないでしょう。しかし、社会的に孤立し、孤独感の中にいるシニア男性が多くいることは、もはやこの国の「常識」であり、世界一説をあえて否定する理由はどこにもありません。世界一かどうかはともかく、それが現在(そしてこれから)の日本社会の重大問題の一つであることは、ほとんど疑いようがないのです。

何がオジサンを孤独にさせるのか?その本質

こうした「日本のオジサンの孤独」の原因は何なのでしょうか。岡本さんは、その原因を「男らしさの縛り」「膨張したプライド」「孤独の美化」「コミュニケーション力の貧困」といったキーワードに求めています。要するに、この国に今も残る「男らしさの残像」のようなものが、コミュニケーションへの消極性を生み、スキルの向上を阻害し、その結果として、男たちをどんどん孤独にさせているということなのです(極言すれば、この国の男たちは、生まれたときから「孤独を宿命づけられている」ということになるでしょう)。

この岡本さんの見解に特に異論はありません。だいぶ変わったとはいっても、やはり「男は男らしく」という考え方はなお支配的であり、そのイメージの中で「無口」はむしろプラス要素になっているのだから、指摘内容は、いちいち「ごもっとも」です。

ただ、一つだけ付け足すべきことがあるとすれば、多くの日本の男たちが、長い時間を過ごすことになる「会社生活」の影響の問題です。終身雇用や年功序列という、日本の特有の「安定神話」の中で過ごす、何十年もの時間。それが、日本のオジサンたち(この場合はいわゆるサラリーマン)の、人との関わり方、コミュニケーションの取り方に与える影響は、極めて大きいといえます。これを見逃してしまうと、孤独問題の本質、さらには問題解決に向けての方向性の認識が、誤ったものとなる恐れがあるように思うのです。

サラリーマン生活で培った「立場をわきまえる」ことのマイナス側面

日本企業において、もっとも重視されるのは、「立場をわきまえる」ことです。なぜそれが重視されるかといえば、それが「組織の秩序」を維持するために不可欠だと思われているからです。会議の場で新入社員が課長に反論するようなことがあっては、組織の秩序は乱れ、困ったことになります。自分の考えなど口にせず、課長の話を黙々とメモをとる。そういう「立場をわきまえた行動」を、新入社員はとらないといけないのです。

特に「部下としての立場をわきまえること」は、会議に限らず、日常の会話や仕事の進め方でも重要となります。部下は、上司に対する物の言い方に常に気をつかわねばならないし、仕事を進めるにあたっては、上司の意向を十分に忖度しなければなりません。「個」を抑制し、部下として「立場をわきまえた行動」がソツなくとれること。それがこの空間での「優秀さの条件」であり、サラリーマンたちは、人生の長い時間をかけて、「個を抑制するトレーニング」を積んでいくことになります。

こうした世界になじんでしまうと、その人はどんどん「枯れた人」になっていきます。抑制を続けていくうちに、次第に「自分(個)」が希薄化していくからです。立場をわきまえた建前論ならば、流暢に話せる。しかし、「あなたの意見は何ですか?」「独自のアイデアはありませんか?」のような本質的な投げかけをされると、たちどころにフリーズしてしまう。そういう、中身のない「枯れた人」へと、突き進んでいくのです。

今の状態を続けることの「危機感」

こうして「枯れた人」になった状態で、定年後のような「個で生きる世界」に移行することは、非常に危険です。会社での立場は、常に誰か(組織)が与えてくれたものであり、その外に出てしまえば、もう誰も立場を与えてくれません。そこから先は、「所与の立場」のない時代に入っていくことになりますが、個として「枯れた」状態になった時点から、それに適応していくことは、極めて難しいといえます。未知の他人との関係をどうつくっていいか分からない。関係を深めていくのに必要な、個としての人間的な魅力も、コミュニケーション・スキルもない。立ちすくんだまま、いたずらに時間だけが過ぎていくことになりかねません。

もちろん、人は会社のみで生きている訳ではないのですから、現役時代から、会社の外で、自由に関係づくりをすればいい話ではあります(実際、女性の場合は、会社外でいろいろな世界と接しており、男性よりも枯れる度合いは低い)。しかし、残念ながら、日本のサラリーマンの人生は、とてつもなく会社中心なので、そうはなりません。それでも、家庭では「個」でコミュニケーションできるはずですが、会話自体が少ないので、それもまた期待はできないという現状。孤独への道を突き進む条件が、万全なまでにそろっているのです。

孤独が嫌なら「今、自身で考えよう」

こうしたオジサンの孤独問題に、第三者が有効な解決策を提供することはできません。もちろん、会社生活において「個で考える」「個で話す」ことを実践すること、できるだけ早い時期から会社の外に積極的に出て「個と個の関係」を多く築くこと、家庭での会話を大切にすることなどを、方策として提起することはできます。しかし、それはあくまで「参考意見」程度でしかなく、本人がその気にならない限り、何の意味もなさないのです。

もしあなたが、孤独は嫌だと感じるなら、一念発起し、頑張っていただきたい。孤独はあなた自身の未来の問題であり、あなた自身で何とかすべき問題なのですから。


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