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生活
2018年07月01日

定年後も働く人へ伝えたい「継続雇用制度」の現状

定年後も働く人へ伝えたい「継続雇用制度」の現状 2018.07.01定年後入門


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 高齢化の進展に伴って、「長く働き続けられる社会」への移行が不可欠となっています。長く働き続けるための方法は多様ですが、もっとも一般的なのは、同じ企業に勤め続ける、いわゆる「継続雇用」の制度を活用することです。

 特に2012年、希望者全員の65歳までの雇用確保措置が法的に義務化されたことで、その流れは加速しています。そうはいっても、歴史の浅さもあり、制度に対する世の中の理解度は必ずしも高くないのが現状です。どのような形態が主流なのか、定年期の人々にどのように活用されているのか、どのような課題があるのかなど、その実態を各種の調査データを活用しながらレポートします。

4つの形態が存在するが「再雇用」が圧倒的

 継続雇用制度といわれるものには、大きく分けて4つの形態があります。

  1. (1)定年延長:定年年齢を全労働者について一律に延長すること。
  2. (2)勤務延長:定年年齢に達した労働者を退職させることなく、引き続き雇用する制度。
  3. (3)再雇用:定年退職という形でいったん雇用関係を終了させた上で、新たな雇用契約を結ぶもの。
  4. (4)定年の定めを廃止する。

 厚生労働省「就労条件総合調査」(平成29年)によれば、(4)に示す「定年制廃止」を実施した会社は極めて少ないことが分かります。また(1)の「延長」に関しては、段階的に年齢を引き上げている会社はありますが、現時点で65歳定年制をとる会社はまだ全体の2割にも満たないのです。現状、多くの企業が採用しているのは、(3)の再雇用制度となっています(特に大企業では約9割が「再雇用のみ」)。再雇用の場合、正社員でなく、契約社員や嘱託という形態となることが多いようです。

継続雇用を選ぶ人が圧倒的に多い理由とは?

 厚生労働省「高年齢者の雇用状況(平成28年)」によると、60歳定年企業における過去1年間の定年到達者約35万人のうち、継続雇用者となった者は82.9%、継続雇用を希望しなかった者は16.9%となっています(この他に「継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者」がわずかにいます)。

 上記からも分かるように、日本の企業人の多くは、定年以降も「今の会社で継続して働くこと」を望む傾向が強いのです。独立行政法人労働政策研究・研修機構の2016年「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」 を見ても、継続雇用希望者が圧倒的に多いことがうかがえます(資料1参照)。どうせ働くなら、慣れた場所がよいということなのでしょう。

   

資料1

資料1

「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」独立行政法人労働政策研究・研修機構、2016年5月

 ところで、継続雇用を望む人には、それぞれの「働く理由」があるはずですが、それはどのようなものなのでしょうか。もちろん経済的理由がメインでしょうが、必ずしもそれだけではないようです。日本公庫総研のレポートでは、経済的理由以外で働いているシニアに、働く理由をインタビューしていますが、そこでは下記のようなものが挙げられています「働くシニア世代、支える中小企業(2017年7月)」。

■ 定年後も働く理由

  1. ・辞めたら何もやらなくなってしまいそうだから
  2. ・体力の低下等が嫌だから
  3. ・働くことが好きだから
  4. ・働けるうちは働こうと思っているから
  5. ・リタイアした人はふ抜けのようなイメージがあるから

継続雇用を選ばない理由は意思とは関係ない諸事情にあり

 前段で、「継続雇用を希望しなかった者は16.9%」と記しました。全体の6分の1程度ということになりますが、それはどのような理由によるのでしょうか。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構のアンケート調査(資料2参照)を見ると、その理由は多岐に及んでいます。「趣味やボランティア活動に打ち込みたかったから」「年金など仕事以外の収入で十分に生活できたから」のように、自分の自由意思によるものがある一方、「健康上の理由から」「家族などの介護のため」「職場の雰囲気や人間関係がよくなかったから」「再雇用・勤務延長の賃金が安すぎるから」のように、意思と関係ない諸事情で、やむをえず選択しない場合も見られます。

   

資料2

資料2

独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」(平成27年1月30日発表)の60~69歳データを元に作成

 最後に出てくる「賃金が安すぎる」に関していえば、データからもそうした事情がうかがえます(資料3参照)。定年時の給与を100とした場合、特に1,000人以上の会社では80以上を保つ率は非常に低く、過半数が60以下の額に下がっています(それ以下の企業規模の会社でも、減額率は低めですが、給与水準自体はやはり下がっています)。確かに、人によっては「それではやっていけない」と判断せざるを得ない場合も出てくるように思われます。

   

資料3

資料3

「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」独立行政法人労働政策研究・研修機構(平成25年)を元に作成

多くの課題が存在する「継続雇用制度」にどう立ち向かうか?

 雇用延長は、その歴史の浅さゆえに、いろいろな課題が存在しています。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査」では、企業が60代前半層の雇用確保についてどんな課題認識を持っているかを、アンケートを元に示しています(資料4参照)。

   

資料4

資料4

「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」独立行政法人労働政策研究・研修機構、2016年5月

 特に比率が高いのは、「管理職社員であった者の扱いが難しい(23.0%)」、「定年後も活用し続けている従業員の処遇決定が難しい(19.6%)」、「高年齢社員担当の仕事を自社内に確保するのが難しい(16.6%)」などとなっています。長い間「60歳になれば職場を去る」ことを前提としてきただけに、「その年齢を超えた人がそこにいる状態」に、会社も現場も対応できていないことが分かります。

 こうした企業サイドの課題意識は、おそらく個人も同じで、「居心地の悪さ」を感じている人も多いと思われます。ただ「制度があるから利用する」といった受け身の姿勢では、長く続けられない可能性が高いのではないでしょうか。継続雇用を選択するときには、どのような仕事で貢献できるのか、それぞれが主体的に考える必要があります。また、自分で「能力を生かせる場」を開拓していくことも必要でしょう。

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