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生活
2018年11月08日

石橋を叩いても渡らない人生から、60歳を過ぎて新たな挑戦

石橋を叩いても渡らない人生から、60歳を過ぎて新たな挑戦 2018.11.8定年後入門


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3回の体験レッスンに通い、結果、無謀にも演劇という未知の世界に足を踏み入れ、現在に。「還暦を迎え気分が落ち込んでいた時、たまたま新聞に目を通していて飛び込んできたのが『60歳以上の芝居未経験者募集』の記事でした。」

このように話すのはゆみさん。四谷三丁目の地下にあるスタジオを拠点に活動する、かんじゅく座という劇団の立ち上げメンバーです。

かんじゅく座は60歳以上のシニアで構成される劇団で、2006年9月に初心者13人で立ち上げました。メンバーそれぞれが芝居に対する熱意や、健康に対する願いなどさまざまな想いを抱えていて、スタジオ内に響く発声練習の声には、活力が漲っています。

今回はこの中で、旗揚げの時からこのシニア劇団と歩みを共にするゆみさんに、演劇との出会いや自分の人生の変化について聞いてみました。

かんじゅく座との出会い

「英語にOut of the blue(予期せぬ突然の出来事)という表現がありますが、かんじゅく座との出会いはまさにそんな感じでした。」
「石橋を叩いても渡らない人間でしたが、ちょうど還暦を迎え気分が落ち込んでいた時、たまたま新聞に目を通していて飛び込んできたのが『60歳以上の芝居未経験者募集』の見出しで、鯨エマさんのカラー写真入りの記事でした。それをみて行こうと思いました。」ゆみさんはこのように話します。

「石橋を叩いても渡らない人間でしたが、ちょうど還暦を迎え気分が落ち込んでいた時、たまたま新聞に目を通していて飛び込んできたのが『60歳以上の芝居未経験者募集』の見出しで、鯨エマさんのカラー写真入りの記事でした。それをみて行こうと思いました。」ゆみさんはこのように話します。

それまで全く考えたことなどなかった世界に、60歳を過ぎて初めて挑戦したゆみさん。ましてやこれまでの慎重な人生に比べ、演劇という自由で答えのない表現の世界に飛び込んだというのは、まさに賭けであったでしょう。

挑戦なんて、口では言えてもそう簡単にできることではありません。皆それぞれに生活があり、何か新しいことを始めたいと思ってもなかなか始めることなどできないのです。

「当時を振り返るゆみさんを見ていると、覚悟を決めて一歩踏み出すことがどんなに大変なことか、また、決して生半可な気持ちで出来た選択ではないということがよくわかります。しかし、出会いは突然訪れます。ゆみさんの話には、不安定な中でさまざまな苦難にぶつかりながらも、そこで挑戦し、生き抜いてきたことを証明するエネルギーが漲っていました。

お客さんの拍手の中、初舞台は無事に幕が降りた

初舞台は、稽古開始から7か月後に行われました。満場の拍手の中、旗揚げ公演は無事に幕が降りたのです。
「旗挙げ公演の時は、自分より観客だった息子のほうがドキドキして、生きた心地がしなかった。」と。そして息子から「お母さん芝居できるんだ!」と言われたと、ゆみさんは楽しそうに語ってくれました。

「自分なりに責務を何とか果たせたと思えた瞬間、本当にうれしかった。」週2回の稽古でたったの7か月間。長いようで短い時間は一瞬で過ぎ去ったといいます。
ひとりに一つの役が割り当てられ、舞台上でその瞬間、そのセリフを話すのはたったひとり自分だけ、そのかかる責任というものは測り知れません。仲間と協力しながらも、旗揚げ公演という大舞台で自らの役目を果たした瞬間は感動的に違いないのでしょう。

「初稽古から初舞台を踏むまでの期間を記録したドキュメンタリー映画『つぶより花舞台』で長セリフを必死に暗記して懸命に演じているわが姿を見て感無量。いとおしいとさえ感じた。」
ゆみさんの想いのこもったこれらの言葉からは、稽古から旗揚げ公演のその日までに過ぎ去った7か月という時間、一つ一つの場面、一日一日にあった想い、不安や苦労、それに劣らぬ達成感や歓喜が滲み出ているように感じました。

その後、活動を続けて10年

「始めた当初は3年で辞める予定だった。」ゆみさんはこう話します。
偶然見つけた記事から、思いがけず飛び込んだかんじゅく座。当初はそれほど長く続けるつもりはありませんでした。しかし、旗揚げ公演を終え、その後公演の回を重ねるごとに、演劇を続けることの価値が徐々に深まっていきました。その根底にあるのは、プロではないかんじゅく座だからこその芝居のおもしろさと、自分たちの表現に対するあくなき探求心でした。

「演劇に答えはなく、満足することがない。結果10年続けている」
表現に正解はありません。答えのない世界だからこそ、その探求に終わりはないのです。そこに年齢は関係なく、日々に新たな発見があります。向上心を持ち続けることで、日々変化していくことの喜びがそこにはあるのです。

ゆみさんの今後の目標

「今では、劇団に入る前の自分が『よくぞ清水の舞台から飛び降りた!』と思っている。」10年続けたかんじゅく座で、これからも様々な公演に関わることは間違いないです。
演劇をやっていると楽しいことばかりでは決してありません。アマチュア劇団だからこそ、突然の降板に頭を悩まされることもあれば、本番では小道具の書類が客席に飛んで行ったり、セリフが一瞬出てこなくてとっさに違ったことを言っていたりなど、その時はとても笑えないような間違いをすることもあります。

「これまで演劇活動はたのしくもあり苦しくもあり仕事と両立させながらもゴールの見えない道をひたすら走ってきたが、人生ここにきてしんどいと感じることがある。」ゆみさんは私たちにこう打ち明けてくれました。

しかし、ゆみさんはこれらの問題にぶつかりながらも、後ろ向きになっているわけでは決してありません。これまで旗揚げ公演から10年間、さまざまな不安や苦労と闘いながらも、ひとつひとつの舞台を作り上げてきたゆみさん。日々の稽古で新しい発見をすることの楽しさ、舞台を成功させたときにお客さんの拍手の中で沸き起こる歓喜、これらは間違いなく、ゆみさん自身がこれまでの努力によって勝ち得てきたものでしょう。

自分から主体的に飛び込んだからこそ、これまでの人生では考えられないような一か八かの想いで踏み入れた世界であるからこそ、そこには変えようのないやりがいと達成感があるのでしょう。これは、いままでもこれからも、ゆみさんにとって変わらない事実です。

「これからはより一層、心身が発信するSOSに耳を傾けながら前向きにチャレンジしていきたい。」
健康に気づかいながら、これからも変わらず、“演じる人も観る人も元気になる”演劇を続けていってもらいたいものです。

かんじゅく座とは

かんじゅく座は60歳以上の方々のアマチュア劇団。1年のうち、前半(6月~12月)は4人の講師それぞれが専門分野の稽古をつけ、後半(1月~5月)は本公演のための練習期間としている。現在平均年齢68歳、すでに何回も本公演を実施し、出張公演では地域の方々との交流を図り、2年に一度の「全国シニア演劇大会」では他劇団と交流を図るなど演劇を通したコミュニケーションを大切に、活動を続けている。

詳しくはホームページへ

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