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仕事
2018年08月03日

定年前後の人のための「講師デビュー」入門 vol.6

培った知見が大きな財産!

定年前後の人のための「講師デビュー」入門 vol.6 2018.08.03学ぶ・教える


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説得力が違う!体験談には聞く人を魅了するチカラがある

これまでのビジネス経験を、講師として次世代のビジネスパーソンに伝えていく。定年後の働き方として、とても魅力的に見えますが、「どうしたらその道に進めるのかわからない」という方も多いと思います。本連載では、講師養成の専門家であり、『定年前後の人のための「講師デビュー」入門』の著者でもある鈴木誠一郎さんに、「講師への道」をナビゲートしていただきます。

連載7回目は「体験談の効用」についてです。自己の体験談は、話のリアリティーがまったく違うので、印象深い話にすることができ、受講者との心理的距離を大幅に小さくする効果も期待できます。うまく活用できれば、講師としての力量アップが可能なのです。

自身の体験がそのまま講師テーマになる

「体験談」というのは、その人のオンリーワン体験です。あなたがこれまでに経験してきたことは、世界であなたしか体験していないのです。その体験がユニークだったり、ちょっと珍しかったり、他の人が知り得ないような世界のことだったりしたら、誰もが聞いてみたい、詳しく知りたいと思うはずです。あなた自身の体験談を話すことで、あなたという人間に関心を持ってもらうことができます。例えば、私の場合であれば「コーチング」というコミュニケーション手法を使って、自動車会社で、当時下から数えたほうが早い業績低迷営業所を10カ月後にベスト3までに改善させた経験があります。こんな経験は、分野は異なっても商品販売に携わっている方であれば聞いてみたいと思うでしょう。実際、私はこの経験を生かし、成功事例セミナー「事例検証!業績低迷営業所をベスト3に浮上させた成功要因の検証と分析!」というテーマで講演を実施しています。おかげさまで人気セミナーのひとつになっています。同じように、あなたには、あなた独自の体験がきっとあるはずです。そのことを、ありのまま話せばいいのです。

話をしている講師のあなたを見ながら、受講生に「へえ~、この講師はそんな経験をしてきた人なんだ」とか、「今日の話は使えそうだ」とか感じてもらうことは、聞き手に心を開いてもらうことにつながります。そして、講師が話す内容に対しての共感を呼ぶのです。単に知識やスキルを身につけたいのであれば、書籍やインターネットなどを使えばいくらでも勉強することができます。でも実際に経験した講師を目の前にして話を聞くということは、リアル感や臨場感が直接伝わってきてワクワクするものです。自分一人で勉強しているのとは感覚が異なり、リアルな感覚が感動を呼び、人を動かします。自分には経験できないような体験談や、ところどころに講師の人柄がにじみ出てくるような場面を参加者は目にしたいのです。

体験談に「お土産」を加える

体験談に加えて、聞き手がすぐに使えるような役に立つ知識やスキルを持って帰ってもらうことがセミナーの本来の目的です。例えば、私の場合、コミュニケーション・セミナーの中で必ず4つのコミュニケーションタイプの話をするようにしています。これは初めてセミナーで話をしたところ、非常に参加者のウケが良かったので毎回必ず話すようにしているものです。どんなものかといいますと、人のコミュニケーションタイプには、傾向として4つのタイプがあります。まず自分のコミュニケーションタイプをテストによって知り、次に他のタイプの傾向を知り、さらにそれぞれのコミュニケーションタイプの見分け方を知ることで、各タイプの人にあった最適のコミュニケーションが取れるようになるという知識です。現実的に役に立つ「お土産」を、きちんと持って帰ってもらうことが重要です。

例えば、Aさんが「コミュニケーション・セミナー」に参加して新しい「知識」を得ることができたとします。新しい知識を得たことで、Aさんの「意識」が変わります。意識が変わったAさんは、やがて「行動」が変わっていくのです。新しい知識を仕入れてから行動が変わるまでは、人によって早い遅いの違いがありますが、新しい「知識」を得ることが出発点になります。講師という立場の人間は、新たな出発点となるべき「新しい知識」を聞き手に伝えていく役割を担っているのです。でも、人の行動は、聞いたからといって、すぐ同じように行動できるものではありません。知識を実際の行動に移していくには時間がかかります。「新しい知識」を実際に行動に移してもらうためには、まず講師の話に共感してもらうことが前提になります。体験談というのは、いわば聞き手に共感してもらうための共感誘発薬みたいなものだといえると思います。

興味を持たれやすい「業界」の話と経験の組み合わせ

私たちが、普段よく使っている商品や見慣れている商品、例えばカップラーメンやマヨネーズ、キャラメルなどの身近な商品が完成するまでを紹介しているテレビ番組があります。おなじみのものでも、あらためてその商品ができるまでのプロセスを見せられると「へえ~」となるものです。また、私たちは、他人の業界に対しても好奇心や興味は強いものがあります。隣の芝生はより青く見えるものですし、誰も同時に異なる複数の業界に身を置くことはできないからです。なかなか経験することができないような世界、例えば、芸能界や政界などは代表的なものでしょう。ちょっとのぞいてみたいと思う気持ちが、テレビや週刊誌をにぎわしているのです。同様に、ユニークであればあるほど、他人の業界の話も耳にしてみたいと思うのです。つまり、いつの時代でも業界ネタというのは聞き手の「へえ~」を生みます。ですから、一番身近なネタで聞き手が興味を持つものといえば、あなたがこれまで働いていた業界のネタだといえます。あなたにとって当たり前のことでも他業界の人たちにとっては、常に新鮮で「ほお~」となるわけです。(ただし、企業の守秘義務になるような情報にはくれぐれもご留意ください)

また、自分では特に意識していないような体験だと思っていても、他の人にとってみればめったに出会えるものではないような体験談や珍しい経験談、特殊な体験談などは、人の関心をとても強くひきつけます。

知識に自分が伝えたい「思い」をドッキングさせる

印象に残る話ということでは、もうひとつお伝えしたいことがあります。それは、「知識に思いをドッキングさせる」ということです。コーチングでは、重要な要素のひとつに「肯定」という考え方があります。「感謝」という「肯定」の中のひとつの行為を説明する際に、私は、以前NHKの「プロフェッショナル」という番組を見ていた時の「思い」をドッキングさせて話しています。その回は、ある脳外科医の話でした。1回の手術時間が9時間にも及ぶ非常に困難な大手術をヘトヘトになりながらも、毎日毎日続けている脳外科医の話に、司会の茂木健一郎さんが耳を傾けている時でした。脳外科医に茂木健一郎さんが尋ねました。「なぜ、そんなにしんどい大手術ばかりをするんですか?」と。すると、脳外科医は「手術が終わった後に患者さんから“ありがとう”といわれるからです」と答えたのです。あまりにも素朴で無防備な返事にも驚きましたが、その脳外科医は本音を口にしていました。人から「感謝」されるということは、自分自身が「肯定」されているという証しであるのです。患者さんからの、心からの「感謝」をもらうことで、脳外科医は強い自己肯定感を抱くことができていたのではないか。ふとそんなことを感じたので、それ以降、コーチングの研修では、この話をするようになりました。

こうしたエピソードによって、知識の「裏付け」ができるので、受講者にとってはとても有益であると考えています。自分一人では、到底知り得ない事実を知ることができるということは、とても大事なことだと思います。間接的に講師から聞くことで、参加者も知識に深みが加わります。そして長く記憶に残るはずです。あなたの持っている知識や知見や、普段の生活の中で見聞きしたことに、あなたが1番伝えたいと思っている「思い」をドッキングさせて、聞き手に強く印象づけてください。

鈴木誠一郎(すずき せいいちろう)
京都府生まれ。立教大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。
同社にて28年間勤務し、営業部、マーケティング本部、経営企画部、地域戦略部、人材開発部などを経験。その後ビジネスコンサルタントとして独立。コンサルタント志望のビジネスマンをフェイスツーフェイスで支援する「オンリーワン・コンサルタント養成アカデミー」を主宰している
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