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仕事
2018年08月07日

不思議の国の不思議なカイシャ vol.3

外国人女性が見た日本企業の実態

不思議の国の不思議なカイシャ vol.32018.08.0750代の歩き方

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わざわざ言葉にしない日本人。あいまいさに助けられることも。

私たち日本人にとっては当たり前のことでも、外国人の目には奇妙に映ることもある日本の組織。日本在住10年以上の外国人女性たちに、日本企業特有の物事や、印象深いエピソードを聞きました。

不思議なカイシャ

日本の大手企業に5年間勤めたアメリカ人のジェーンさん。現在もさまざまな日本の組織と関わっています。自国との文化の違いに戸惑いながらも、個人的には日本の文化に救われている面があることも語ってくれました。

サイレンスが続いても平気な日本人

日本人は会話がなくても平気ですね。日本に来て間もない頃のこと。電車の中で英語を勉強している人を見かけたので「英語を勉強しているんですね」と話しかけたら、相手はすごくびっくりしてどこかに行ってしまいました。アメリカだと、そんなふうに声をかけるのはふつうですから、「あの人はどうしてあんな態度をとったのだろう」とずっと不思議に思っていました。エレベーターの中もシーンとしているので、何か言わないといけない気になります。オフィスも静かで会話がなく、話をすると「うるさい」と言われてしまいます。

外国人は職場の人間関係を円滑にしたり、同僚を知ったりするためにsmall talk(会話)をしなくてはいけないと思っていますが、日本ではしゃべっているとサボっていると思われるようです。特にアメリカ人は、空いている時間にコミュニケーションしようという感覚が強く、静かなら自分で何か言わなきゃいけないという意識があるので、「しゃべらないで」と言われるのが最初は驚きでした。

日本人の同僚との会話も衝撃でした。「仕事はどう?」と聞いて「ふつう」と返ってきたからです。「ふつうって何? なんでもいいから話してよ!」と言うと、案外面白い話が出てきて「なんでそれをさっき言わなかったの?」っていうことも(笑)。週末に何をしていたかを、積極的に話すところも見ません。月曜日に私が「週末は何をしていたの?」と聞くと、同僚は「え、ちょっと」って・・・。「どういうこと!? ちょっとって何!?」と、最初は、この「ちょっと」という返事に戸惑いましたが、今では理解できます。話をしたくないときは「ちょっと」というだけで無難に会話を終了できます。

とにかくアメリカ人は、ずっとサイレンスが続くのがつらく、乗り物の中でもカフェでも、近くにいる人に話しかけます。本当は興味がなくても、とりあえず話しかけるんです。そんな私も、あるとき電車で騒ぐ女子高生に「うるさいな」と感じました。そう思う自分に気づいたときに、日本に慣れたなと思いましたね。

中身よりも形に真の目的がある

日本に来たばかりの頃、ある日本人のグループに「英語を教えて」と頼まれたのでレッスンをすることになりました。文法の説明をしていたら「そんなのじゃない」といった反応で、なかなか進みません。実は、その生徒さんたちは英会話を理由に集まりたいだけで、helloぐらいが言えれば満足だったよう。日本人はコンテンツそのものに比重をおかないのです。コンテンツよりも集まること自体が目的ということは、アメリカにはありません。ただ集まりたいだけなら、パーティーかバーベキューをします。

他にも、日本人の知り合いが営業系の会社に入りたいと言っているのを聞いて、この人はシャイで営業に向いていないのにどうしてこの会社に入りたいのだろうと不思議でした。日本人は「この仕事をするために、この会社を選ぶ」というより「この会社に入りたい」という感覚が強いのです。日本人のように最初から合わない仕事をずっとやっていくのも、あまりよくない気がしますが、反対に、私のアメリカ人の友人のように「自分に合う仕事がない」と、いつも仕事が長く続かないのも考えもの。アメリカでも、合わないと思ってもある程度頑張ってやっていく中で、合う仕事を見つけるのがベストな考え方だからです。“ダメなキャリアの作り方”という点では、会社重視の日本と仕事重視のアメリカという感じで、パターンが真逆なのかもしれません。

日本で仕事をしていると、差別とまではいきませんが、同じアメリカ人でも白人と黒人では扱いの差があるのを感じます。黒人はジャズバンドと思い込むのは、ちょっと差別というか・・・。それから、すごくいい人でもお酒を飲むと、セクハラする人がいます。女性に対する扱いがわかっていないというか、こちらは人としてリスペクトされていないように感じます。外国人同士のハグを見て「じゃあ、俺も」という人もいるけれど、それは違う。それこそ空気を読んでほしいです。日本の文化にハグはないのですから、しないほうがいい。平気で体のことを言うこともあります。会うたびに「太った?」「やせた?」と言ってくる人もいますよね。

言わない日本人が、最後の日にそれを言う!?

一番衝撃的だったのは、以前の職場を退職するとき、最後の日に初めて「ずっとこうしてほしかった」と説明されたことです。それまで何のフィードバックもなかったので、自分ではそのやり方でいいと思ってやってきていたのに、さよならパーティーで言われるなんて…。「えっ! それを最初の頃に言ってくれたら、そうしていたのに、最後の日に言うなんて!!」と思いましたね。また、別の組織では、何も言われずに終わってしまったこともありました。次の仕事がこないので「どうして?」と理由を聞いても、結局は教えてもらえませんでした。ですから、今では初日に「なんでもできるので、どうしてほしいか言ってくださいね!」と、しつこく言うようになりました。安心して少しは言ってくれる人もいますが、それでも言わない人も多くいます。

日本人は言葉が少ないと思います。こちらはいくら言われても嫌だと思いませんが、日本人は命令している気がして言いたくないのでしょうか。現に外国人同士で激しい意見交換をしていると、日本人によく驚かれます。でも、これはよくあることで喧嘩ではありません。意見交換が終われば、5分後に仲良くするのがふつうですが、それもまた驚かれます。

日本人は相手を褒めることも少ないですね。ずっといい仕事をしても褒められず、少し悪いことをしたら、すごく怒られるというイメージです。怒っていないことが褒めていることと、日本人は思っているかもしれませんが、アメリカ人は褒められないとやる気がなくなります。実際、前の職場ではアメリカ人は、みんなやる気がなくなり、売り上げが落ちました。ですから、私は日本人上司に、頑張った人には1カ月の終わりにprize(賞)をあげてはどうかと提案しましたが「なんで?」と言われて、その提案は採用されませんでした。

ただ、私は性格的にconfrontation(対決)を避けたいので、アメリカ人のようにストレートに言わなくていい点は助かっています。アメリカだと「この人が私に迷惑をかけています」という必要があるところを、日本なら「この人がちょっと・・・」と言うだけでわかってもらえますからね。

言葉にしないことに意味がある

日本の職場で好きなところは、あいさつです。英語では聞きたいわけじゃなくても“How are you?”と質問するしかありません。でも日本語は「おはようございます」「お世話になります」「お疲れさま」など、いろいろなあいさつ言葉があります。言葉が決まっているから、その日に個人的に何か悪いことがあっても細かい感情に気づかれることがありません。それがよいときもあるし、悪いときもありますけれどね。

最初から知っておけばよかったと思うことは「言葉にしないことの意味」です。アメリカの文化では、しゃべっていないと意味がない、意見がない、考えていないということになります。私自身も、いつでも何かについて意見を持っています。でも日本人は、しゃべらずに待つことでいいものができると信じているところがあります。具体的にやり方を交わし合うよりも、あいまいな会話の流れの中で決まっていく。たとえ1人のスタッフがすごく悩んで考えていたとしても、そこですぐに意見を言わず少しの間、待つことが大切。今では私も本当に大事なときに大事なことを選んで言うようになりました。それができない外国人が目につくほどです。

とにかく日本人は余計なことを言いません。余計の範囲はムダ話から大切な話まで、かなり広いです。ちなみに日本人の言う余計な話は、多くの外国人にとってはコミュニケーションのための必要事項。日本語で言う“ムダ話”のニュアンスは、英語にはありません。いずれにしても日本で働く外国人は、口に出す前に言うか言わないか判断して、もし言わなくてすむなら言わないほうがいいでしょう。逆に、日本人も、外国人はなんでも言うのが当たり前だということをわかってほしいですね。

ジェーンさん
アメリカ出身、30代前半女性、日本歴10年。日本のテレビ局に5年間勤務。テキストづくり、番組づくり、台本チェック、検討会などいろいろな仕事を経験。現在はフリーのナレーターに。
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