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仕事
2018年07月30日

教える人になるためのキャリアの向き合い方

教える人になるためのキャリアの向き合い方

「学び直し」が定年後の輝きをつくる 2018.07.30学ぶ・教える


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定年前から学び直し~教える人になるためのキャリアの向き合い方

教える人は、単に知識を伝える人ではありません。これまでの経験や現在の心境が言葉の端々ににじみ出てくるものです。会社の中で不遇をかこってしまう人は、不遇と思った途端に、どうしても他責思考になってしまいがちです。しかし、ミドル期以降のキャリアへの向き合い方が、経験の語り方も左右すると三輪教授は言います。ミドル期以降のキャリアのあり方について研究を深めている京都産業大学の三輪教授に、教える人になるためのキャリアの向き合い方についてお聞きしました。

ナレッジワーカーという概念から見えた、ミドル期の問題点

三輪氏がメーカーの人事部で働いていた2000年前後、IT技術者が急に増えた時期がありました。人事部にとっては、彼らのキャリア構築支援が1つの課題となります。「そのときに出会った概念がナレッジワーカーなんです。IT技術者に限らず、新しい構想をたてたり、一から問題解決の仕方を考えたりするような仕事が、今後ますます増えてくるだろうと思いました」。

一方、従来の職種だからといって、キャリア構築の意識が高いわけではないと言います。「気づいたのは、会社員になると、自身のキャリアを『つくろう』とする意識が希薄になるんじゃないかということ。新しいビジネスや戦略を考えるためには、自分のキャリア自体、意思を持ってつくっていくことが必要であると思いました」。

研究者となってナレッジワーカーを中心とするキャリア研究を深める中、次のような問題点にも気づくようになったそうです。「ミドル期以降には思い通りのキャリアにならないことが増えてきます。若い時から意識を高くもって取り組んだとしても、年齢や組織の壁にぶつかるケースもよく見かけました」。

ミドル期の「学び直し」が次のキャリアをつくる

そこで三輪氏が注目したキーワードは“学び直し”でした。「同じ仕事を続けるにせよ、別の仕事にコンバートするにせよ、中高年からは学び直しが必要になることが大半です。でもそのエネルギーを持っている人と、持っていない人がいるのです。変化や新しいことをはじめた経験がある人と、そういう経験なくミドル期を迎えた人では違いがあります。新しいことを抵抗なく受け入れるタイプが、学び直しができる人と言えますね」。

SEやコンサルタントのように、プロジェクトごとに「短距離走を繰り返す」ような働き方をしてきた人ほど、ミドル期になって自ら働き方・生き方を調整していくことが多いと三輪氏は語ります。「目標を達成したり、自ら新しい事業をけん引したりしてきた人たちは、あるときから内面的な成功を重んじるようになり、後進を育てる目標へとシフトすることがあります。このようにキャリアや目標の組み換えができる人は、自らのキャリアを客観的に見ることができている。それは、経験を教える(伝える)うえで、重要なポイントでしょう」。

自らの「武器」を人に伝えられるレベルで抽象化する

ミドル期に入り、職種転換する人もある程度います。例えばIT技術者から農業経営者に転身した人は、農家の経営をするときに、かつての会社員時代の経験が役立ったといいます。このときに役立ったのは、仕事の根底にあるロジックを会得していたことにあるのではと三輪氏は解説します。「ロジックを会得している人は再学習が早いという共通点があります。この再学習の力は、職の転身をはかるときに有効なのはもちろん、定年後にボランティアをしたり、コミュニティに参加したりするときにも共通します」。

定年前から“学び直し”を重ねてきた人は、経験を教えることへのシフトがスムーズです。ただし、学び直しする機会がなかった人も、新しいことに出会ったときの「再学習」によって、自らの経験をいったん抽象化し、再度現場で使える力に変換することが可能です。これは経験を教える際にも有効な転換方法といえるでしょう。

なお、後期キャリアで転身をはかる人の多くは、必ずしもあるべき姿をビジョナリーに描いているわけではないと指摘します。「どうやったら食べていけるだろうかと考えて、3つくらい手持ちの武器を持っている感じがしますね。1つ使ってみて、ダメなら違う球を出して、必ずしもスマートな姿ではないのですが、たくましさがあります」。過去の一時期の経験だけを語っていると、時間の経過とともにその価値があせてしまいます。自身の武器を複数認識し、それを一度人に伝えられるレベルで抽象化することができると、それは普遍的な知恵として教えられるコンテンツになるといえるでしょう。

意図をもってキャリア構築していくことは、キャリア選択やキャリアシフトにおいても有用であると三輪氏の研究から示唆を得ることができます。それは同時に、定年後に教える人になる際の準備としても機能するものです。環境変化がある時ほど積極的に“学び直し”を深めることを、ぜひお勧めしたいと思います。


インタビュー有識者:京都産業大学 経営学部教授 三輪卓己氏
(専門:人的資源管理論 組織行動論)

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