長生きしたけりゃ、長息しなさい
長生きしたけりゃ、長息しなさい
セラピー音楽家 牧野俊浩さんインタビュー 2019.03.29 仲間をつくる
[top_taglist]
今回インタビューさせていただくのは、セラピー音楽家の牧野俊浩さん。歌手として、NHKのコーラス番組やオペラ・ミュージカルなど、様々な舞台への出演経歴を持つ。
歌手としての仕事の傍ら、自身の経験を活かし高齢者向けの“声みがき術”を確立。現在では、シニアの方々に向けた歌声サロンなどを開催し、発声や呼吸など声に関する様々なアドバイスを行う、声みがきインストラクターである。
長生きしたけりゃ、長息しなさい
牧野さんの発声法の中でまず重要なポイントとなるのが呼吸法であるという。腹式呼吸という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、牧野さんがさらに大切にするのは長く息をすること。豊かな声を出すために欠かせない、深い呼吸だ。
こうした深い呼吸を習得するためのトレーニングとして、牧野さんは普段サロンで教えている方法を一つ我々に紹介してくれた。
「“逆腹式呼吸”というやり方です。言葉を発する度におなかを膨らませます。そうすることで声のはりが出てくるんです。これを3~4分行い、あえいうえおあお…の音を発してみます。」
一般的な腹式呼吸の、息を吸ったときにおなかを膨らませ、息を吐きながらしぼませるというやり方とは逆に、息を吐きながらおなかを膨らませるという方法である。これらの呼吸法は横隔膜の強化につながり、肺活量を鍛え長い息を吐くことにつながるようだ。
「いわゆるロングブレス。長生きしたければこれを上手くつかってみてはいかがでしょう。」牧野さんはこのように話す。
呼吸を支える筋肉の重要性
「せっかく自分の筋肉でおなかをつくっているのならば、自分の思うように使えるようにすべき。トレーニングというわけではないが、腹筋は必要。」
良い呼吸にはそれを支えるおなかの筋肉が必要不可欠である。表面的な呼吸の浅い深いのみならず、筋肉の強化によって体の内部から呼吸を支えるための土台をきちんと作る。それが、いい声を手に入れるための秘訣だ。
肺活量を支える横隔膜は、主な役割は呼吸におけるポンプのようなものであるが、心臓の下から脇腹と広範囲に渡っているため、身体の芯に直結する重要な筋肉であるとも言われている。上半身と下半身を繋ぎ、身体全体のバランスをつかさどる、大変重要な役割を担った部分である。
呼吸法と共に、横隔膜や腹筋といった体幹を支える筋肉を鍛えることは、自分の身体を支えてコントロールするために適した筋肉をもつことに繋がり、身体全体の調子を整えることにもなるだろう。
「鳴りのいい身体を作るために、自分の身体を変えていくことが必要です。」
高齢者を対象とした、声みがき術を始めたきっかけ
年を重ねることで声が出しにくくなり、滑舌が悪くなってしまうといった悩みを抱えるシニアは少なくない。自分の言ったことを何回も聞き返されたり、言葉が聞き取りづらいと言われたりしてなんとなく悲しい思いをしてしまうこともあるだろう。声みがき術のトレーニングを行うことで、発声や滑舌が変わり、そういった悩みから解消されたという方はとても多い。
「年をとると、みんな社会の役に立ちたいと思うようになる。でも、何をしたらいいだろうか。そんな大仰なことではなく、きれいな声優しい声だな、と相手が思うことで、周りにも影響を与えていくことができます。特別何かをしなくたって、声で周りを変えることができると思います。」
シニアの方が声を鍛えることで、自分に自信がつき声だけでなく表情や雰囲気も明るくなる。それと同時に、周りの人にも喜んでもらえると牧野さんは話す。
「人間の声帯は、聞いたものを必ず模倣するものなんです。そのため、自分が良い声を出していると、相手の声帯も気持ちよく動くんです。自分の声によって、周りの人にも影響を与え明るい環境ができる。良い声を出すことは社会貢献です。」
一番身近なコミュニケーションツールとして声がある
「言葉を知っていても相手にささるかどうか、これは声の質に関わってきます。48年間歌ってきた中で、ささる時とささらない時の違いは確かにあります。声の質を意識して歌う時と、何百回と歌ってきたからいつも通りやればいいや、という時では全く違います。」
声は他者に自分の想いを伝え、相手に何かを投げかけるための大切なツールである。言葉が人の心に届くときと、届かないとき。声の質は誰かに言葉を投げかける時、とても重要な要素となる。
「声には質があると知っているだけで変わってくる。しゃべっている時、みんな意識していないですよね。先程から述べているような発声法や呼吸法を、普段からやっていくべきなんです。」
トレーニングすれば、誰でも声は変わる。きちんとしたやり方を知っていれば、何歳からでもいい声は作ることが出来る。自分も他人も幸せにある声みがき術を、これからもぜひ多くの人に伝えていってもらいたい。