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生活
2019年04月22日

立川談慶 人生100年時代 落語は薬

立川談慶 人生100年時代 落語は薬。2019.04.22先輩に聞きました


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立川談志からの 罵詈雑言が地下資源になっている

Q 談慶さんは、新著『人生を味わう 古典落語の名文句』(立川談慶著 PHP文庫 680円+税)の中で、「落語は薬であり、落語家は医者である」と述べています。とても興味深い視点ですね。

談慶
師匠談志は「落語は人間の業の肯定である」と定義づけました。実社会では人間のダメな部分をなんとか努力で解決しよう、隠せ、と教わりますが、例えば、お酒が人間をダメにするのではなくて、「人間はもともとダメな生き物なんだということをお酒が教えてくれるんだ」と。どんなに忙しい人でも落語を聞くことによって「人間はダメでいいんだよな」と思えれば、心のトゲが抜かれ、心がほぐされると思うんです。それはまるで、良い整体師に会った時のような感覚なのでしょう。なので、落語は薬のように人の心に効いてくるものなのだと思います。

Q 談慶さんは、ご著書や様々なメディアで、苦しかった修行時代について語っていらっしゃいます。
談慶さんにとって修行時代とはどのようなものでしたか?

談慶
私が慶應大学経済学部を卒業し、ワコールに入社したのが1988年。当時はバブル経済の真っただ中でしたから、落語家になりたいなんて、泥臭く青臭いことは言えないムードでした。でも、当時の私は、その風潮が長く続くとは思わなかったのです。日本社会には学歴社会でサラリーマンこそが安定する道という決めつけがありました。立川談志という稀有なアーティストのもとに入れば、凄い人生を送れるのではないか、という予感に頼って決断したんです。それは予感でなく大きな誤解でしたが(笑)。その後、入門してから前座を抜けるまでに9年間もかかりました。前座時代の平均は3年から4年ですから、だいぶかかりましたね。談志は「修行=不合理・矛盾に対する忍耐」と、定義づけていました。なので、何をされても納得せざるを得ない。その後はリカバリーして、トータルで14年で真打に到達し回復運転しました。真打昇進パーティで談志は私の事を「こいつはこっちに来いと言っても向こうに言っちゃって、どこに行くんだと思っていたが、今、オレの基準を満たすような所に戻ってきた。ということは、ムダが無駄ではなかったということ。ムダが芸の幅になった」と救いの言葉を手向けてくれたのです。今になって思えば、9年間の前座時代に談志師匠からもらった罵詈雑言のような言葉は、地下資源になっていて、石油を精製する努力を積み重ねていれば、産油国になれるのだと思います。あの9年間こそが人との向き合い方や世の中の見方を自然と教わることのできた年月だったのです。

人生100年時代に必要なのは、全てを包みこむ『おふくろ社会』

Q 修行時代は人生における『枕』と言えるのでしょうか?

談慶
はい。私の修業時代は人生の『枕』の時代でした。一般的に、100年人生において、前半は『枕』であると言えるのかもしれません。今や人生は長期戦となっています。なので、短距離ランナーから長距離ランナーへと体質改善する必要があるのではないでしょうか。体質改善するためには、いろいろな物事に興味を持つ事が大切です。何を好きになるかわからない、可能性はフレキシブルです。談志はかつて「新聞で正しいのは日付だけだ」と言ったことがありますが、疑う力、批判する力は決して悪いものではありません。メディアリテラシーは、目先のスキルを身に付けるのではなく、考え方、捉え方、根本的な思考を身に付けていくことが重要であり、それが体質改善につながっていくのだと思います。あとは受け入れる力も大切です。落語の世界にはイジメがありません。与太郎みたいな変な人も受け入れちゃう。受け入れちゃった方が楽しいということも物語っているんです。落語に『一眼国』という演目がありますが、一つ目小僧の世界から見れば、私たちの世界の方がおかしいのです。自分たちの狭いエリアで抱いている価値観は、自分たちの中でしか通用しないということを落語は何百年も前から物語っています。受容力、包容力、包みこむ力…。人間はもともと、子宮という大事な「ふくろ」に包まれて、この世に誕生したわけです。今、インクルージョン社会なんていう難しい言葉が使われていますが、全てを包みこむ社会、言わば「おふくろ社会」こそが、これからの100年人生時代に求められる社会なのではないでしょうか。

(取材・文 鈴木ともみ)

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落語家・立川談慶 プロフィール
1965年生まれ。長野県上田市(旧丸子町)出身。趣味・特技:ウェイトトレーニング歴10年、ベンチプレス120kg。慶應義塾大学経済学部を卒業後、(株)ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、1991年立川談志18番目の弟子として入門。 前座名は「立川ワコール」。2000年に二つ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。2005年、真打昇進。慶応大学卒業の初めての真打となる。

主な著書
新著『人生を味わう 古典落語の名文句』(立川談慶著 PHP文庫 680円+税)
『大事なことはすべて立川談志に教わった』(KKベストセラーズ)
『談慶の意見だ 絵手紙集』(信濃毎日新聞社)
『この一冊で面白いほど仕事術が身に付く~落語力』(KKロングセラーズ)
『いつも同じお題なのになぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)
『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP文庫)
『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか 落語に学ぶ「弱くても勝てる」人生の作法』(日本実業出版社)

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